3/9 春旅行9日目その1 三江線(三次〜江津)

廃線

 

それは僕にとって、大きな意味を持つ言葉だ。

僕が廃線というものを肌で感じたのは、2008年の島原鉄道南線廃止のときだった。当時、僕は小学6年生だった。

小学5年生の時に佐世保から島原に引っ越した。佐世保から島原までは3時間もかかり、遠かった。その遠い遠い道を繋いでくれたのが、島鉄だった。

おそらく、僕が初めて1人で電車に乗ったのは島鉄だと思う。島鉄はそんな僕のことをいつでも目的地に送り届けてくれた。

僕の家は島原駅の目の前だったから、島鉄は本当に近い存在だった。車の方が速いとか、日本一高い私鉄とか言われるほどのローカル線だけど、僕は島鉄のことが大好きだった。

 

島鉄はかつて、観光トロッコ列車という観光列車を走らせていた。僕も島原に来てから、何度か乗ったことがある。帽子が飛びそうな風、近くで鳴る踏切の音の大きさ、潮の匂いー今でもありありと思い出すことができる。

島原は、雲仙普賢岳の噴火で大きな被害を受けた。トロッコ列車は、その復興のシンボルだったと思う。トロッコ列車の中では、ガイドの人が沿線の説明をしてくれる。その中で、噴火災害と、そこからの復興を僕は知った。今こうして走っているところに、土石流が流れた過去があったこと。火山灰が降った過去があったこと。そしてそこから立ち直ったこと。トロッコ列車は、島原という土地の魅力と力強さを教えてくれた。

 

そんな島鉄の一部が廃線になる。そのニュースを聞いた時、僕はほんの少ししか島原にいないけど、すごくショックだった。廃止されるのは普段僕は使わない路線だったから、直接生活に影響はなかったんだけど、トロッコ列車は廃止になった。

 

その年の夏、僕は一枚の絵を描いた。

 

応募した賞は、「島原市観光年賀はがきコンクール」最優秀賞を取れば、翌年、島原市が作成している観光年賀はがきに絵が載るというコンクールだった。

 

僕はその絵の真ん中に、大きくトロッコ列車を描いた。

 

翌年から廃止が決まっているトロッコ列車を描くということは、最優秀賞がもらえないということと同義だ。なぜなら、もうそこには存在しない観光資源を描いているのだから。

でも僕は描いた。描かずにはいられなかった。僕にとって、島鉄は、トロッコ列車は、とても大切な、大好きな存在だったから。

 

結果、僕は優秀賞をもらった。

トロッコ列車を描いていなければ、最優秀賞を取れたとは言わない。でも、きっと選考した方々に、賞状を渡してくれた市長に、島鉄が、トロッコ列車が、大好きな子どもがいることは伝わったのかなと思う。

 

前置きが長くなりました。

広島県三次市からおはようございます。

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ただ今午前5時。当然外は真っ暗。街灯もないからかなり怖い。なぜこんな時間に外を歩いているのかというと、この3月末で廃線となるJR三江線の始発電車に乗るためだ。

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5時38分発、江津(浜田)行き。江津に着くのは9時31分で、3時間のロングランだ。僕にとって最初で最後の三江線乗車になる。

僕は三江線に縁もゆかりもない。でも、もう二度と見られない「三江線がある景色」を見ておきたかった。

 

5時台という早い時間に関わらず、既にホームには多くの人が列を作っていた。

そして、一両編成の小さな車体が静かにホームに滑り込む。

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席はすぐに埋まり、立ち客も出るほどの盛況ぶりだった。

発車してしばらくは闇の中。景色も何も見えなかった。

 

広島と島根の県境の口羽駅で、三江線では珍しい列車の行き違いがあった。

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ここでなんと27分の停車。多くの乗客が降りて散策を始めたので、僕も降りてみることに。

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朝早い時間の空気がみずみずしくて気持ちがいい。

口羽駅では、三江線グッズの手売り「三江線マルシェ」が行われていた。

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廃止路線のうち、口羽駅宇都井駅間を保存するために活動している地域の団体が企画・作成したグッズだという。

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せっかくなので自費出版の写真集と、手ぬぐいを買った。活動の一助になるなら嬉しい。

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三江線全線開通の記念碑も立っていた。今後地元の人はどんな気持ちでこの碑を見るのだろう。

ここでは、もう一つ驚きの出会いがあった。先ほどの手売り会場で、若者3人組が店主と、「学生で、春休みなので〜」みたいな話をしているのを横で耳にして、「おお、同類がいる!」と嬉しくなって、声をかけてみた。

「どこからいらっしゃったんですか?」

「兵庫の方です」

「あ、僕もなんですよ。ちなみに大学は?」

 

神大です」

 

「一緒じゃないっすかああああ!!!」

 

いや、これはびっくりした。こんなことがあるのかって。なんだってここはあと20日で廃駅となる無人駅だぞ、こんなことがあるのか。ほんとにびびった。もう面白すぎて、ここには載せれないけど写真も撮った。出会いに圧倒的感謝。

 

駅があることで、線路があることで、人と人が出会い、繋がる。

三江線がなければ、僕は一生彼らに会うことはなかったと思うし、彼らにとってもそうだ。消えゆく路線は、まだまだ新しい出会いを生み出している。

 

口羽駅を出ると、江津までノンストップだ。途中、数人の剛の者が下車して行った。次の電車まで5時間くらいあるが、本当の強者だ。

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116段の階段を登らなければ駅にたどり着けない「宇都井駅」では、なんと何人かの剛の者が乗車してきた。断っておくがこれは始発電車である。今までどこにいたんだ。周り田んぼしかないけど。昨日は雨だったけど。

 

江の川に沿って、電車はゆっくりと進む。そして、定刻で江津駅に辿り着いた。

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最初で最後の三江線、完乗完了。

 

 

電車に揺られながら、鉄道ってなんだろう?そんなことを考えていた。

 

そこに鉄道が走るということは、世界と繋がっているということだ。かつて島鉄が僕と故郷を繋いでくれたように。
本当は、車や飛行機があれば電車などなくても何処へでもいける。でも、

 

「線路は続くよ、どこまでも」

 

そこに線路があることで、自分と世界のどこかが繋がっていることを視覚的に、はっきりと実感できる。鉄道とは、そんなものではないだろうか。

 

途中、地域の人が沿線から列車に向かって大きく手を振っているのを何度か目にした。三江線もきっと、たくさんの人と世界を繋いできたんだと思うし、地域の人に愛された路線だったんだと思う。

 

乗ってよかったな、心からそう思った。